あっしさんへの手紙 十三通目

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あっしさん、お変わりありませんか?
暑い中、毎日お仕事に励んでいらっしゃるのでしょうね。

こちらは長かった梅雨がようやく明けて、太陽が顔を出し始めました。
いよいよ暑い夏がやってきます。
週末には花火大会があるんですよ。
あっしさん、憶えていらっしゃいますか?
憶えていてくださってますよね?
だって、あの日があっしさんとふたたび逢えた日だったんですもの。


あの時はばあやに教わって初めて縫った浴衣を着て行ったんです。
落ち着いた色合いがいいです、ってあっしさんが褒めてくださった藍色のクレマチスの柄の浴衣。

ちょうど家に呉服屋の千歳屋さんがいらしていて、お母様とお茶会用の反物を選んでたんです。
畳の上に放射状に転がった反物を眺めていたら、お母様があなたも何か選んだら?っておっしゃったんです。
私は着物を着る機会がないからいいわ、って言ったら、ばあやが「お嬢様ご一緒に浴衣を縫いませんか」って。
ばあやはお針仕事も得意なんです。
お母さまの着物も全部ばあやが仕立てたものなんです。
ばあやはお母様の実家から一緒にこの家に来たのだとか。

お母様の兄弟は歳の離れたお姉様と三人のお兄様、そして末っ子のお母様の五人。
お姉様がお嫁にいらした後は、お兄様と一緒に遊んでいらしたから、それはもうお転婆だったのですって。
自転車に乗ったり、木登りをしたり、おままごとやお人形遊びとは縁がなかったそうです。
ですから、そんなお母様と一緒になられたお父様は私にも寛容なお気持ちで接してくださるのだと思います。

お父様はお母様の長兄の伯父様と学生の頃からの親友でいらしたのだそうです。
だから、よく家に遊びに来ていたし、お母様のことも知っていたんです。
その伯父様が若くして急に亡くなられて一周忌が過ぎた頃、お父様が家を訪ねてお祖父様に「お母様と結婚させてください」っておっしゃったのですって。素敵なお話でしょう?
お転婆娘で嫁の貰い手が無いと心配していらしたお祖父様は、亡くなった伯父様の親友ということもあってお父様の処へお嫁に出されることにしたんだそうです。
でもその時お母様は十八歳と若かったから、お祖父様が心配して ばあやも一緒にお嫁入りしたのですって。

だからばあやは家族のような存在なんです。
お母様にとってはもう一人のお祖母様のようでもあるし、私にとってはもう一人の母親のようでもあるんです。
お母様は「ばあやは最期までこの家の人」っておっしゃってます。

話が逸れてしまいましたね。
千歳屋さんの話に戻りますね。
私が藍色のクレマチス柄の反物を選んだら、お母様はもっと娘らしい可愛い色柄の反物にしたら?っておっしゃったんです。
いつまでも子どものようなお母様だから、綺麗な色目の着物がお好きなんです。
お父様はその姿を、目を細めて見ていらっしゃるだけなの。
私が選んだ反物を見て、ばあやがこう言ってくれたんです。
「お嬢様、いい柄の反物をお選びになりましたね。それは鉄線ともいう花でございましょう?
何で鉄線と言うかご存じですか?
蔓がとても強くて、細いながらも針金のように強いからなのだそうですよ。
一見たおやかに見えるけれど芯の強いお嬢様にはぴったりですね」って。
さすがにばあやはよくわかっているわ、って思いました。

それでばあやに教わって初めて縫った浴衣を着て花火見物へ行ったんです。
あの日はすごく人出が多くて、ばあやと一緒に歩いて行くのも大変でした。
いつもならこの辺りで見物しましょうよ、って言いそうな私だったのに、あの夜はどうしても行かなきゃいけない気がして。
何だか特別な夜になるような予感がしていたのかもしれません。
もしはぐれてしまったら、駄菓子屋さんで落ち合いましょう、って約束をしていました。
ばあやは花火より久しぶりに戻った駄菓子屋のおばあさんとのお喋りと冷たいラムネがお目当てだったのかも。
人の波に流されて案の定、ばあやとはぐれてしまいました。

いつもより近くに見える花火はそれは綺麗でした。
光が尾を引いてしゅるしゅると夜空へ駆け上がったと思ったら、きらきらと小さな光の粒がはじけて少し間を置いて「どん!」って、お腹に響くような音がするんです。
それが面白くてずっと空を見上げて、咲いては消える夜空の花を眺めていました。
ぼんやり立っていたものですから、人波に押されてよろけてしまって、危うく転びそうになってしまいました。
そんな私を抱きかかえてくれたのが、あっしさんでした。

驚きました。
あの雨宿りの日に逢った人が、花火見物でよろけた私をまた、助けてくださったんですもの。
困った時に来てくれる人、きっとご縁がある人なのだろうなと漠然と思いました。
あっしさんは何事もなかったように隣で花火が上がるのを眺めていました。
暗い中で花火がはじけるほんの僅かな時間だけ、あっしさんの端正な横顔を見ることができました。
私は花火を見るふりをして、ずっとあっしさんの横顔を見つめていました。
あっしさん、あの時は私が見ているのに知らん顔していたのですね。
ご存じだったのでしょう?
照れてらしたのかしら?

花火が終わって見物人が家路を急ぐ頃、あっしさんは私の手を取ってゆっくりと歩き始めました。
駄菓子屋で ばあやが待っていることを伝えたら、小さく頷いてくださいました。
そこで初めてあっしさんの名前を知りました。
それからしばらく途切れ途切れに言葉を交わして。
あっしさんは花火っていい思い出がなかったのだそうです。
以前、とても悔しい思いをなさったから花火を見るとその事を思い出しますとおっしゃっていました。
でも、今夜の花火はいい思い出になりました、と。

やっぱり私の予感は当たっていました。
どうしても行かなきゃいけなかったのはこのためだとわかりました。
そして、この運命は信じてもいいのかしらと思ったんです。


今夜も遠くで花火の打ち上げの音が響いています。
その音を聞くとあっしさんとふたたび出逢った夜のことを思い出します。
着慣れない浴衣と花下駄で足捌きの良くない私を気遣って、ゆっくり歩いてくださったあっしさん。
何もおっしゃらなくても、その心遣いは伝わりました。
押しつけがましくなく手を取って、さりげなく視線を落としてくださって。
その手のぬくもりと握ってくださった力の加減が今でも掌に甦るようです。

あっしさんがお戻りになったら、ばあやに男仕立てを教わって浴衣を縫いましょうね。
きっと浴衣がお似合いでしょうから。
そして花火見物に行きましょうね。
ふたたび逢えた夜みたいに手をつないで歩きましょうね。


そんな日が早く来ることを願っています。
それまでここでお帰りを待っています。

ごきげんよう。


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2016-07-28(Thu)
 

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2016-07-28 06:51 |  |    [ 編集 ]

花火大会でフリーズ?!♡ 

お嬢さん、おはようございます(^_^)
会長ぉと92号さんも話されてましたね。
クレマチスの柄の浴衣、お嬢さんなら
お似合いだろうなぁ~花火大会に着て
行かれたらって。
きっと、素敵な予感がしてたのでしょう
ね(^_^)
お嬢さんが縫ったのですね、素敵(^_^)
何でも出来るばあやがそばに居てくれて
心強いですね(^_^)
あっしさん、お嬢さんが花火見ずに
あっしさんを見てたこと気づいてると
思いますよ~照れてフリーズ・・・?
恥ずかしくてお嬢さんを見れなかった
のでは?(^_^;)
素敵なお手紙拝見出来、素敵な思い、
再会に繋がってるんだなぁ~って感じ
ます(^_^)
2016-07-28 08:37 | 113号 | URL   [ 編集 ]

あんにょん 

お嬢さんの家の様子
町並み
目を閉じれば その世界にタイムスリップ

クレマチス素敵ですね
先日京都でこのクレマチスが思い出せなくて
友達とええっと~~ この花の名前は~と
結局思い出せず(笑)
最近街にはあまり咲いてないね、、と

あっしさんの浴衣姿想像して(//∇//)
すご~~く 素敵♡

今日もにまにま怪しいい人(笑)

会長ぉ~がどんな風に手紙を届けてくださるのか
たのしみ~~
いつも想像できない展開だから(笑)

会長ぉ~夏休み終わったら よろしくお願いしま~す
2016-07-28 18:12 | つー | URL   [ 編集 ]

 

knobさん こんにちは ^^

わーん、なんだか繋がってる…(*´ω`*)
気になるエピソードが詰め込まれて
嬉しくってスキップスキップです~♡

あっしさんの心に残る日本の美しい伝統を素敵に…♡
ありがとうございます。^^

いつかまた あっしさんと一緒に花火を見上げるような
ときめく時が来ることを待ち望むばかりですね。^^

会長ぉ 夏休みがあけたらお届けに参ります!(-"-)ゞキリッ


2016-07-28 18:52 | きじたん会長ぉ | URL   [ 編集 ]

Re: タイトルなし 

鍵コメさん、アンニョン。

風景が浮かんで来ましたか?
そんな風に言っていただけてうれしいです。

今回は手紙のようで、手紙ではない部分もあって。
書き始めたらずいぶん長くなってしまいました。
夜になってどうしても前の手紙と矛盾するところに気が付いて、言葉を少し足しました。

リダの打ち上げ花火…
もし、次も雨だったら、立ち直れないかも~
そのマイナス思考がいけない?
台風でなければいいのかな?
でも、やっぱり一緒に見てみたいですね。
2016-07-29 01:15 | knob  | URL   [ 編集 ]

Re: 花火大会でフリーズ?!♡ 

113号さん、アンニョン。

クレマチスという花はなかなか奥が深い花でして。
その中の6枚の花びらを持つのが鉄線というのだそうです。
鉄線も意味がそのまま、面白いです。

あっしさん、フリーズしていたんですか?
知りませんでした。
同じ文章を読んでも、それぞれ思い描くことは違うのですね。
そこまで考えが及びませんでした。ふむふむ。
2016-07-29 01:22 | knob  | URL   [ 編集 ]

Re: あんにょん 

つーさん、アンニョン。

つーさんの思い描くのはどんな風景なんでしょうね。
言葉だけだと想像する楽しみがありますね。
それぞれの風景を思い描いて…にまにま。

あっしさんの浴衣姿もいいでしょうね。
今回浴衣を着てしまうとできすぎた画になってしまうので、お嬢さんだけ着てもらいました。
あっしさん、浴衣を肌蹴ちゃダメですよ^^

会長ぉは夏休みだとわかっているのに、むちゃぶりしちゃいました。
会長ぉ、ミヤネ~
2016-07-29 01:30 | knob  | URL   [ 編集 ]

Re: タイトルなし 

会長ぉ、アンニョン。

夏休み中なのにすいません。
コメント欄を楽しく読みながら、なかなか参加できずにいました。
お手紙を書きたい気分になってしまって、会長ぉの予定を無視して書いてしまいました。
お嬢さんは気分で書くものですから。

クレマチスの浴衣の話がいいなぁと思ってお借りしました。
両方読んでくださっている方はにまにまでしょうね。
2倍楽しめるお得なブログ(笑)

いつか一緒に花火を見たいですね。
その日が来るのが怖い気もしますけど。
あの時は、はらわたが煮えくり返ったあっしさんでしたから。

あっしさんのお返事が楽しみです。

↑プレッシャーをかけておきながら、
会長ぉ、楽しい夏休みを~なんて言ってみる^^
2016-07-29 01:40 | knob  | URL   [ 編集 ]

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